2021年6月発行

渡邊 曻

株式会社リビエラホールディングス
代表取締役会長兼社長

渡邊 曻

レストアの完遂は
〝ゴール〟ではない

設計図も職人も造船所も、何もない中から始めた6年を超えるレストアプロジェクトを終え、この6月、ついに職人チームの総責任者である棟梁のポール・ハービーから歴史的木造帆船「シナーラ」の引き渡しを受けました。
西洋帆船のレストア専門家がいないこの国に、本場の技術を伝えてくれた世界12か国50人の職人に感謝しています。彼らなくして、このプロジェクトは成しえませんでした。
しかし、レストアを完遂しただけでは50%。これを引き継ぐのは、リビエラ社員から抜擢されたクルーです。帆走して初めて魂が吹き込まれるのがヨット。クルーが育ってこそ、シナーラは〝完成〟するのです。
社員クルーによるセールトレーニングは、すでに13か月に及ぼうとしています。この間、操船と船体保守の技能訓練だけでなく、〝海の貴婦人〟といわれるシナーラにふさわしい心のありようを模索しています。世界の情勢や70年を超える人生で感じてきた私の思いを伝えてきました。最初は遠慮がちだったクルーの言葉が、航海訓練を重ねるたびに確信的になってきています。一人ひとりの人格の高まりを感じています。この私たち自身の〝磨き上げ〟は、これからも続きます。

ひたすら磨く意義を知った30余年

理念の一つとする「古き良きモノを後の世代に繋ぐこと」と、ただ維持することは、似て非なる営為です。かつて米国ロサンゼルスの「リビエラカントリークラブ」(RCC)を事業継承できることになったとき、現地メディアには「なぜ日本人が……」とする厳しい論評が出たものです。私は前オーナーのハザウェイ氏に誓いました。「RCCをひたすら磨く。そして、守りながら進化させる」と。
それから今日まで34年。齢90を過ぎて矍鑠たるハザウェイ氏は、毎年RCCを訪れて、会うたびに温かい言葉をかけてくれます。試行錯誤の年月でしたが、「あなたに託す」と言ってくれた前オーナーの心に叶う運営ができていることは、私の小さな誇りです。
シナーラへ寄せる思いも同じ。

SDGsフェスと伝統のレガッタと

環境や普遍的な価値観を、後世に継いでいくための活動がSDGsです。多様な観点からシナーラで取り組んでいることは、リビエラにとって、まさにSDGsの象徴といえるでしょう。
SDGsに同じ志を持つ人々や組織をつなぐ〝ハブ〟となり、連鎖を起こしたいと始めた「リビエラSDGsフェス」には多くの賛同をいただき、理念でつながる同志の輪の広がりを実感しています。
この6月の第2回もコロナ禍によりオンライン開催としましたが、第3回(10月31日予定)こそは、皆様が参加し体験できる場とすべく準備を進めています。
またSDGsフェスと時期を同じくして、欧州伝統のヨットレース「Swan Regattas」を、アジアで初めて開催する運びとなったことも、この秋のトピックです。10月29〜31日予定の「リビエラ・スワン・アジアレガッタ2021」は、全世界の愛好家が「いつかはSWAN」と憧れる近代ヨットSWANとリビエラの共催。
海外のレガッタはヨット文化の精髄。競技だけでなく、付帯するイベントやブース、パーティーも含め重要な社交の場とされています。フェラガモ社の総帥でSWAN社オーナーも務めるL・フェラガモ氏ら、多くの友人たちも楽しみに来日を表明してくれています。
シナーラの壮挙と併せ、このレガッタが、日本のヨット文化の転換点とならんことを願って……。


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