2018年9月発行

シナーラ

Photo by Yoichi Yabe

これまでもお伝えしてきたとおり、私たちリビエラグループでは、神奈川県三浦小網代Bayのリビエラシーボニアマリーナ特設ドックにおいて、英国建造の木造帆船「シナーラ」の本格修復に取り組んでいます。艇齢90年を超える歴史的名艇だけに、作業には多くの困難が伴いますが、これまでのところプロジェクトは順調。去る6月22日(金)には、いよいよ上棟式を迎えました。2020年の東京オリンピック開催に合わせて非公開で進行している「シナーラ」修復プロジェクトについて、お知らせしたいと思います。

シナーラ

「海の貴婦人」と呼ばれた
〝世界最高〟のヨット

帆船「シナーラ」は、英国サザンプトンの造船所「キャンパー&ニコルソン社」で設計・建造。全長96feet(29.26m)、全幅18.7feet(5.69m)、総トン数73t。骨組みはオーク材、デッキその他はチーク材。初代オーナーのノーサンプトン侯爵が「世界最高のヨットを造る」の信念のもと、自ら木材の吟味から始めて10数年の歳月をかけ、1927年進水。2本マストに5枚のセイルを張って帆走する姿は、その美しさをもって「海の貴婦人」と呼ばれました。20世紀初頭につくられた帆船が現存する例はシナーラの他にもありますが、建造当時の外観・内装をそのままに残しているのは、本場ヨーロッパでも稀有。前時代の優れた造船技術を今に伝える存在として、シナーラは世界の注目を集めています。

2017年1月、
修復プロジェクト始動

世界を代表するこの名艇が、日本企業の所有に移り、三崎港に回航されてきたのは1973年のこと。以来、北海道から沖縄までの津々浦々に優美な姿を示してきたシナーラでしたが、艇齢を重ねるうちに、さしもの「貴婦人」もコンディションを落としていきました。
シナーラの母港シーボニアマリーナが、リビエラグループ入りしたのは2001年。このときから私たちは、「古き良き物を磨き上げ大切に扱って維持する」の企業理念に則り、シナーラの保全に努めてきました。シナーラは、文字通り、私たちリビエラグループの「フラッグシップ」のひとつ。しかしながら、単にわが所有であることを超えて、日本が世界から譲り受けた宝ともいうべき存在です。この宝船を、完全な姿で、東京オリンピック2020のセーリング競技が行われる相模湾に浮かべたい。その思いで、艇齢90年に達した2017年1月、レストア(本格修復)のプロジェクトがスタートしました。

シナーラ
船大工
船大工

本場ヨーロッパから
招聘された船大工たち

日本は「船大工」という世界一流の造船技術を持つ国とされますが、前世紀初頭のヨーロッパ様式を持つ木造帆船の完全レストアとなると、話はまったく違ってきます。この国には、ヨーロッパの歴史的造船技術を習得した技術者はいません。当初は、高度技術が維持される海外でのレストア実施も検討しました。が、日本へのレストア技術伝承のためには、何としても母港リビエラシーボニアマリーナでの作業実施としたいところ。そこで、レストア専門の高度技術者を海外から招聘しました。
今、リビエラシーボニアマリーナの特設ドックでは、世界10か国から集まった優秀な船大工たちが働いています。そのうちの1人、イギリスからやってきたポール・ハービーは、クラシカル・ヨットのレストア一筋30余年の大ベテラン。ポールは言います。「シナーラは、これまで手がけてきた船の中でも特に格式が高い。その復元修復に従事できることは誇りだ」と。
「私たちヨーロッパ出身の職人が、遠く日本までやってきて、日本の技術者たちと手を携えて船のレストアを行うのは、稀なことです。リビエラの熱い夢を受け、私たちは強い熱意を持って、やりがいに満ちながら、この仕事をリビエラスタッフと共に続けています。
シナーラが建造されたイギリスと日本では、様々な面で違いがあります。それもまた課題のひとつですが、われわれは、この船をつくった当時の職人たちが、困難な条件下で努力を重ねていたことを忘れてはなりません。
シナーラは再び、世界の大海原を優雅に渡ります。そのとき、かつてキャンパー&ニコルソン社の職人たちが感じたであろう誇りと喜びを、この日本でリビエラと共有できることを楽しみにしています」(ポール・ハービー談)

風を受けて
セーリングできてこそ

古い船の修復には、さまざまなドラマがあります。
港に浮かんでいたシナーラを陸揚げして、ドックに入れるだけでも、思わぬ苦労がありました。わずか50メートルほどの距離を、古民家移設の風を受けてセーリングできてこそテクニックを応用した技術で、数センチずつ、何週間もかけて、じわじわと動かさなければならなかったのです。
部品の一つ一つ、木の板一枚一枚を丹念に取り外し、磨きをかけた上で番号をつけて、梱包します。この手間のかかる作業の結果、資材の約7割が、レストア後にも使えることが判明しました。
90年前の匠の技術は、現代のテクノロジーに勝るものがあります。
こうした作業はすべて正確に記録し、後世に残していきます。然るべき時期が来たら多くの方にご覧いただけるよう、メディアとも連携しています。プロジェクトの記録は、環境教育や海洋教育の教材としても、優れた価値を持つことでしょう。
可動船としての役目を終え、港に係留されて、歴史資料や観光資源として余生を送る船があります。クラシックな船は、波止場に立って壮麗な姿を眺めるだけでも魅力的。しかしながら、風を受けてセーリングできてこその帆船です。人を乗せて沖に出れば、多くのことを体験させてくれる。シナーラは、これからも、そういう船であり続けます。
90年前に誕生した帆船に、さらに100年の命を吹き込む。「シナーラ」修復プロジェクトは、ますますピッチを上げていきます。

シナーラ

Photo by Yoichi Yabe

シナーラ
シナーラ

Photo by Yoichi Yabe

シナーラ

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