2022年4月発行

ペッカ・オルパナ閣下

欧州大陸最北に位置する森と湖の国。人口約550万人と小国ながら、1人あたりGDPは世界屈指。教育無償化をはじめとする各種の施策で機会均等・国民平等を実現し、「世界幸福度ランキングNo.1」「SDGs達成度ランキングNo.1」など、世界を大きくリードする国。そして、世界中の愛好家の憧憬を集めるヨットメーカー「Nautor's Swan」を生んだ国―それがフィンランド共和国。ペッカ・オルパナ駐日フィンランド大使に話を聞きました。 ※このインタビューは、2022年2月25日に行われました。

インタビュー:渡邊華子

フィンランド共和国
駐日特命全権大使

ペッカ・オルパナ

Pekka ORPANA

1957年ヘルシンキ生まれ。ヘルシンキ大学で法学修士号取得。地裁判事を経て1982年フィンランド共和国外務省に入省。フランス、アルジェリア、英国、国際連合代表部、南アフリカの在外公館で勤務。中南東欧州課長、駐ペルー大使、駐セルビア大使等を歴任。2018年9月より駐日特命全権大使。

大自然に抱かれたシティボーイ

― フィンランドと私たちリビエラは、海事関連のご縁で結ばれています。リビエラは、貴国が生んだ世界的ヨットメーカー「Nautor's Swan」の日本総代理店。大使にもリビエラ逗子マリーナをご訪問いただきました。
また、弊社会長の渡邊との語らいの場を設けていただいています。

オルパナ: 渡邊会長とは、SDGsなどについて大変興味深い話し合いをしています。
妻と共に逗子をご案内いただいたのも、良き思い出です。私が日本に着任したのは2018年9月のこと。公務で主要都市は回りましたが、新型コロナウイルスの流行もあって、これまでの任地ほど各地を訪れることができていません。細部まで手入れが行き届いたリビエラ逗子マリーナからは、美しい相模湾が広がり、富士山があんなにも大きく見える自然豊かな日本のリゾートを満喫しました。

― 「大自然とともに心豊かに生きる」を企業理念に掲げるリビエラは、このインタビューシリーズで、皆様の幼少期からの自然体験をお尋ねしています。大使はどんな子ども時代を過ごされたのでしょうか?

オルパナ: 私は、姉と弟の3人きょうだい。生まれも育ちも首都ヘルシンキです。典型的な〝シティボーイ〟でしたね。でも、ヘルシンキは海辺の街で、自然へのアクセスはわりと容易です。自然環境はごく身近にありました。
また、夏になると、田舎で過ごすのがフィンランド人のライフスタイル。子どもの頃は、南西部の多島海域によく家族と行きました。フィンランド多島海域(サーリストメリ)は〝世界最多の多島海〟です。何を〝島〟と定義するかで数は違ってくるのですが、おおむね4万1000以上の島が密集しています。そういう海域に、父と二人で小さなエンジンを積んだ釣り船や手漕ぎのボートで乗り出すのです。
投網漁はやらなかったけれど、それ以外の釣りは全部やりました。プロの漁師が使う漁具も使ったりして。大きな板に100個ほどのフックがついた道具もあった。もっとも、魚を釣るのは父。私はもっぱら船を操っていました。7歳の子どもが、海でボートを操船していたわけです。サーリストメリは、わが国が世界に誇る〝とっておきの秘密〟。魚も美味しい。
フィンランドには「自然享受権」という権利があって、自然環境は〝みんなのもの〟。ルールを厳守し、自然環境にダメージを与えない限り、誰が所有する土地であっても、マナーをわきまえた上で自由に入っていくことが認められています。
夏の大自然を満喫した子ども時代。とても幸福でした。

ペッカ・オルパナ閣下

サーリストメリで家族と過ごした幼少期

日本のリゾートは残念ながら未体験

― 素晴らしい幼少期の自然体験ですね! コロナ禍での視察はなかなか難しかったと思いますが、日本の自然はいかがですか?

オルパナ: 残念ながら訪れたのは主に都会ばかりで、日本の自然を味わうことは、ほとんどできていないのです。長野県の山岳地帯や熊本城には行きました。夏の北海道にも。北海道はフィンランドと気候風土が似ていて、懐かしい思いがしました。

― 三浦半島の先端にあり、穏やかな小網代湾の中にあるリビエラシーボニアマリーナもぜひ。湾の奥に広がる小網代の森は、谷沿いに小川が注ぎ、深い森から湿地、干潟、そして海までが一つの流域として連続する世界的にも貴重な〝奇跡の森〟。希少種を含む多くの生きものたちが、多様な生態系を形成しています。地元では、周辺住民、行政、民間事業者などが手を携えて保全活動に取り組み、現在は整備された散策路がある他は、道路も民家もありません。リビエラもかねてから保全活動に積極参加。2006年開始の「リビエラ未来づくりプロジェクト」でさらに加速させています。

オルパナ: それは興味深い。東京から近いのですか?

― 車でのアクセスが向上し、80分ほどで着きます。世界12か国から50人の職人を神奈川県三浦に招聘し、約6年半かけてリビエラが完全レストアに成功した、歴史的木造帆船『シナーラ』のホームポートもこのマリーナ。英国の「クラシックボートアワード2021」にて帆船レストア・オブ・ザ・イヤー(over40)を受賞した、究極にサステナブルな乗り物です。

オルパナ: 海洋国家でありサステナビリティに重きをおくフィンランドとしては、「シナーラ」をぜひ見たいですね。

マンデラの南アフリカで目撃した
ダイナミックな時代

― 大使は、外交官として40年のキャリアをお持ちと伺っています。多くの国を訪れた中で特に印象に残った国はどちらですか?

オルパナ: どの国にもそれぞれの特色がありますから、甲乙をつけることはできませんが、交換留学生として高校生の頃過ごした米国カリフォルニア州は印象深いです。また、1997年から2001年に滞在した南アフリカ共和国での勤務は、感慨深いものがありました。
着任した当時、ネルソン・マンデラが大統領に就任して3年という時期でした。ひとつの国家がダイナミックに変わっていく様子を目の当たりにできたことは貴重な経験でした。抑圧に苦しんできた人々が、民主主義と法の下での平等を勝ち取って、国全体がポジティブに生まれ変わっていく姿は素晴らしかった。
また、南アフリカという国は、自然の宝庫です。行政府があるプレトリアは都会ですが、そこを少し離れれば、悠久の大自然に容易にアクセスできます。あの国の大きな魅力のひとつですね。

― 都市と自然のアクセスが近いという点で、南アフリカもフィンランドもリビエラの両マリーナも相通じているように思えます

ペッカ・オルパナ閣下

コロナ禍でなかなか日本全国を回れない中、熊本で貴重な日本文化を体験

ペッカ・オルパナ閣下

季節ごとにハイキングやトレッキング、オーロラなど、一年中大自然を楽しめるラップランド

機能美にこだわるフィンランド人

― フィンランドが生んだ世界的企業のひとつがNautor's Swan社です。フィンランドのみなさんにとって、マリンライフとは、またNautor's Swan社とは、どのような存在なのでしょう?

オルパナ: 長大な海岸線と数多くの島を持つ地理的環境に加え、自然享受権がありますので、フィンランド人の多くにとって、マリンライフは馴染み深い存在であると思います。現代は他にもさまざまなレジャーやスポーツがありますから昔ほどではないにせよ、セーリングをはじめとする海洋スポーツの人気は今も大変根強いです。船造りにも長い伝統があって、船を愛好する人々にとっては、Nautor's Swan 社の船は憧れの対象。自分たちの国が生んだ世界最高峰のプロダクツとして、誇りに思っているフィンランド人は多いでしょう。自動車でいえば、英国人にとってのロールスロイスですね。

― それは、世界中の愛好家に共通する評価です。

オルパナ: Nautor's Swan 社の船がこれほどまでに国民的に愛され、誇らしく思われる理由は、品質と機能性を重視するフィンランド人の姿勢にあるといえるでしょう。華美に寄らず、機能美にこだわるプロダクトデザインが、フィンランド人の気質に合うのです。これは船だけでなく、工業製品全般にいえることです。

Swan

リビエラが独占輸入販売代理店を務めるNautor's Swan

ペッカ・オルパナ閣下

大使館には立派なサウナ設備が。「フィンランド人にとってサウナは文化。幸福度の一部を構成する季節ごとにハイキングやトレッキング、オーロラなど、一年中大自然を楽しめるラップランド大切なライフスタイルです。その効能は“ととのう”だけではありません。サウナに入ることで、みんながつながる。語り合える」まさに裸と裸の付き合いという点では日本の温泉と同じです。

「幸福度世界一」は教育投資から

―「リビエラ未来づくりプロジェクト」の一環として、未来を担う青少年に向けたリビエラの海洋教育プログラムでは、すでに6000人以上の子どもたちが体験しました。

Nautor's Swan社を擁するフィンランドは、間違いなく海洋活動の先進国。海洋教育やマリンスポーツへの取り組みはいかがですか?オルパナ 年齢や学歴に関係なく、誰もがわずかな料金で受講できる「市民教育センター」が自治体のサービスとしてあります。たとえば無数の島が密集しているサーリストメリの近辺では、セーリングやモーターボートについて学びたいという住民ニーズに応えるのは自治体の務め。だから、割安でコースを受講できる環境が整っています。

― フィンランドが小学校から大学まで学費無償化を実現していることは有名ですが、プレジャーボートの操縦まで公共サービスで学べるとは……。

さすがは「幸福度ナンバーワン」のお国柄ですね。オルパナ フィンランドは、国連による「世界幸福度ランキング」で4年連続1位になっています(2022年3月に5年連続1位と発表)。この報告書は主観的幸福度を測るもので、グッドガバナンス(良い統治)、信頼、自由度や平等といった社会的要因によって各国のスコア(得点)を説明しようと試みています。人々がどういうときに幸福を感じるかといえば、最終的には心配事がなく、安心して暮らせるときだと思います。公共サービスのあるなしだけで幸福度は測れませんが、それがあることによって人々のウエルビーイングが増すことは確かです。

ペッカ・オルパナ閣下

インタビューが行われたのは、ロシアがウクライナに侵攻した翌日のこと。大使は青いシャツに黄色のネクタイで登場。「ウクライナの国旗の色をまとうことで、ウクライナへの支持を表したかったのです」

わずか550万人の人口
ひとりひとりが〝人財〟

オルパナ: 無償でインクルーシブな教育を行うことに対するポジティブなAttitude(態度)は、フィンランドの人口が550万人しかいないというのが理由の一つです。私たちのウエルビーイングと競争力を維持するためには、男性も女性も老いも若きも一定以上の能力を身につけて、ひとりひとりが〝人財〟にならなければ。

― リビエライズムが浸透した〝少数精鋭〟でありたいと考えてきました。リビエラでも社員ひとりひとりの能力を高め、人間力を磨くことに最も力を注いでいます。転職のための職業訓練やリタイア後の生涯学習にも、積極的な公共投資が行われていると伺いました。

オルパナ: リカレント教育は、職業人生における特定の時期や年齢だけに関わることではなく、生涯いつでも受けられるものです。フィンランドでは、それが社会のコンセンサスになっています。国が教育に投資することへの反対意見はまったくありません。経済事情によって学ぶ機会を閉ざされることがあってはならないので、学費は無償。どの街に住んでいても同レベルの公教育を受けられるから、逆に私立学校はほとんどありません。

― 親の所得差による教育格差が拡大していると問題視されている日本社会にとって、示唆に富んだお話です。

平等であることが
社会全体を強くする

オルパナ: 教育と能力開発の機会均等を徹底してきたことが、国力に直結しています。国民全般のスキルが上がらなければ、通信機器大手「ノキア」のような企業も生まれなかったでしょう。教育投資はジェンダー平等も促しました。近年では大学進学希望者の半数強が女性。女性の大半が家庭の外で働いています。女性の企業経営者や管理職も増えてはいますが、まだ課題は残っています。

― 現職のサンナ・マリン首相も、貴国では3人目の女性首相です。しかも、まだ36歳!! 素晴らしいことだと思います。

オルパナ: そうですね、ただ大切なのは年齢や性別ではありません。リーダーとしての能力と資質が、その人にあるかどうかです。
すべての人が機会均等を保証され、多様性が受け入れられていることが、社会全体をイノベーティブにし、強くします。
そのコストは社会全体で引き受けなければなりませんが、市民も企業も喜んで税金を納めています。なぜなら税金が有効活用されていることを確認でき、教育だけではなく他の社会福祉分野でも還元されていることを実感できるからです。
企業にしてみれば、高い教育を受けた人が増えれば、即戦力人財の採用が容易になります。フィンランドの強みの一つは、企業と高等教育機関、そして研究所が協力し合うエコシステムが上手く機能していることです。

肝心なのはAttitude(態度)

― フィンランドは、国連とベルテルスマン財団が発表した2021年度のSDGs(持続可能な開発目標)達成度ランキングでも1位を獲得しています。

オルパナ: SDGsは政府から企業、そして個人まで、すべての社会構成員が関わるもので、それぞれが役割を果たし、貢献することが大事。SDGsを達成するうえで、企業の強力な支援は欠かせません。言葉だけでなく、具体的な行動が伴う必要があります。変化に対する前向きなAttitudeと意識がカギとなります。

― 大使には、「リビエラSDGsフェス」でご登壇いただきました。講演でご紹介いただいたフィンランドにおける各種の取り組みに、これからの活動のヒントを得た人々も多かったと感じています。

オルパナ: リビエラSDGsフェスへの参加や渡邊会長との対話を通して、リビエラがSDGsを達成するために、海洋プラスチックの回収や循環型農法でのゼロ・ウェイスト、CO2削減に徹底した対策を取っていることを知り、素晴らしいことだと思いました。こうしたさまざまな活動において認められ、地域社会に共感の輪を広げているという印象を受けました。

営利事業と社会貢献は
必ず両立できる

― リビエラにとってSDGsへの取り組みは、トレンドに乗って始めたことではありません。自然との共生も、古いものを大切にする磨き上げも、次の時代を託す人づくりも、2006年より愚直に継続してきたことですが、社会貢献である前に、本業に直結しています。むしろ、こうした取り組みなしに事業を持続することはできない。そう捉えています。

オルパナ: 長期的には、SDGsを達成することができれば、世界がより安全に、より平等に、より良い場所になるという点で皆が恩恵を受けます。だからこそ、企業を含めた私たち全員は、直接的な利益がなくともそれらを追求すべきです。これは、国レベル、企業レベル、そして個人レベルで平等にいえることです。
もちろん、企業がSDGs活動をマーケティングツールとしても使い、商業利益の面でも意欲を高めることができれば、さらに良いといえるでしょう。顧客と消費者の環境意識と要求はますます高まっています。SDGsの推進は、皆にとってウィンウィンの関係なのです。

― 自分たちが得たメリットを、社会全体の利益につなげていこうということですね。

オルパナ: リビエラのAttitudeには、それを感じることができました。

― 心強いお言葉、ありがとうございます。私たちはこれからも、営利事業と社会貢献の両立をめざします。そのお手本は、貴国がお国全体で示してくださっています。

ペッカ・オルパナ閣下

第3回リビエラSDGsフェスのトークセッションに登壇

渡邊曻

リビエラグループ代表の渡邊曻と


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