2020年6月発行

デビッド・エイシャー

Photo: Yoichi Yabe

今回のゲストは、歴史的木造帆船「シナーラ」のふるさと英国から!!
最古の歴史を有する名門ヨットクラブ 「ロイヤル・ヨット・スコードロン」(RYS)の元リーアコモドール、 ヨットレーサーで実業家のデビッド・エイシャーさんです。

Royal Yacht Squadron
Former Rear Commodore Yachting

David Aisher

デビッド・エイシャー

1951年、英国貴族の家系に生まれる。レーサーとして著名な祖父の薫陶により幼少期からヨットに親しみ、自身も幾多のレースで勝利。RYSをはじめとする数々の名門クラブの幹部会員として、欧州・北米のヨット界を長年牽引してきたリーダーのひとり。

ロイヤルの名を冠する
ヨット界の最高権威

デビッド・エイシャーさんは、ヨットレース界の第一人者。
英国貴族の血統を受け継ぐエイシャーさんは、競技者としての輝かしい戦歴ばかりでなく、RYSが主宰し、世界で最も権威があるレガッタレースと評される「カウズ・ウィーク・レガッタ」の総責任者としても知られる重鎮です。
エイシャーさんがリーアコモドールを務めたRYSは民間の愛好家団体ですが、国王ジョージ4世が草創期のメンバーに名を連ねるなど、英国王室とのつながりが深く、格別に〝ロイヤル〟の名称が付されました。また、「海のF1」と呼ばれ1870年に第1回大会が開催されたアメリカズカップ発祥の地でもあります。南極探検で知られるロバート・スコットのような歴史上の人物も、RYSは多数輩出しています。
「200年を超えるRYSの歴史では海軍との関係も密接で、RYSのクラブ艇は、英国海軍旗を掲げて走ります。現在のコモドールは、女王陛下の夫君であるエディンバラ公爵フィリップ殿下。私も過去回、カウズ・ウィーク・レガッタレースをご一緒しました」(エイシャーさん・以下「」内同)

海には、若者の人生を
変える力がある

エイシャーさんとリビエラが思いを同じくすること―それは青少年育成活動への取り組みです。
「近年、私は『Tall Ships Youth Trust』という財団を運営して、困難な状況下にある12歳から25歳の青少年の支援に取り組んでいます。この財団のミッションはシンプルかつ効果的。4隻の大型ヨットを用いて、彼らを海に導くことによって、彼らが直面している社会的な障壁を打ち破り、人生の可能性を広げる手助けをします。昨年だけでも950名を超える若者たちを虐待的な環境から救い出しました。
洋上で過ごす時間には、人生を変える力があります。
昨年、私たちのプログラムに参加した若者たちの実に95%以上が、安定した職業に就いたり、教育訓練の機会を得たりしています。私が知る限り、この成果を上回るサポートプログラムは他にありません。
深刻なコロナ禍に悩まされる今日、私たちの活動は、これまで以上に求められることになるでしょう。
ちなみに私たちの慈善活動は完全民営。公的資金には頼らず、人々の善意によってのみ支えられています。活動に貢献するのは自分自身のため。まさにライフワークです」

ロイヤル・ヨット・スコードロン

イングランド南部・ワイト島に佇むロイヤル・ヨット・スコードロンのクラブハウス

ロイヤル・ヨット・スコードロン

ロイヤル・ヨット・スコードロンに招かれた際の渡邊とエイシャーさん
デビッド・エイシャー氏の愛艇「タリア」(1888年建造・船齢133歳)

今やらなければ失われてしまう

シナーラの修復プロジェクトでは、折に触れて貴重な助言をいただくなど、エイシャーさんにご協力をいただきました。
「シナーラ再進水について、日本のリビエラの皆さんに、心からのお礼を述べたい。シナーラは私にとっても思い入れの深い船です。
私はヨットマンの家系に生まれました。シナーラを日本に回航したマイク・マクミラン艇長とも面識があります。マイクは私の祖父の同僚。祖父もシナーラに乗っていたのです。
この縁がなかったら、私がリビエラのこのプロジェクトを知ることはできなかったでしょう。
人生には、やり直しが利かないことがあります。今やらなければ、永遠に失われてしまうものもあります。英国を遠く離れた日本で、リビエラの渡邊会長がシナーラの修復に挑んでくれたことは、まさに人類全体への貢献でした」

レーサーたちを励ます
133歳の〝彼女〟

エイシャーさんご自身も、古船の修復に優れた実績をお持ちです。
「10年ほど前、私は1隻のヴィンテージヨットを手に入れました。シナーラよりもさらに古い、1888年建造の小型艇「タリア」です。最近の私は競技の第一線からは身を引いていますが、できる限りの機会を捉えて、レストアしたタリアを駆って、レースに参加しています。前々世紀に生まれた〝老婦人〟が元気な姿を見せれば、それだけで大いに盛り上がるからです。これはヨット界にとって、とても重要なことです」 古き良きものを大切に守り、磨き上げて後世に伝える。「リビエラ未来創りプロジェクト」と相通じる理念の実践者が、ヨットレース界の重鎮であることは頼もしい限りです。

日本のヨット界は成長している

英国に比べれば、日本のヨット界はまだまだです。しかし、エイシャーさんの眼差しは温かでした。「シナーラに会うため、リビエラシーボニアマリーナを訪れたとき、気づかされました。このマリーナでは、新鋭のクルーザーやレーサーヨットが数多く整備されている。日本のヨット界は着実に成長しているのだ、と。私自身のキャリアを振り返ってみても、ヨットレースは組織的支援が欠かせません。その点からも、地元でオリンピックゲームが開催されることの意義は、日本のヨット界にとって大きいのではないでしょうか。五輪競技という最高のイベントに、皆が一丸となって取り組むことは、日本のヨット界をさらに成長させる。私はそれを確信しました。
リビエラをはじめとする日本ヨット界の皆様のご健闘を、心から祈っています」

デビッド・エイシャー

エイシャーさんから頂いたレター


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