2020年3月発行

シナーラ
伊集院 静

Photo by Yoichi Yabe

伊集院 静

神奈川県三浦市のリビエラシーボニアマリーナの特設ドックで復元(レストア)作業が進む木造帆船「シナーラ」。
20世紀初頭の英国で当時最高の材料と技術を施し建造され、その華麗な姿から〝海の貴婦人〟との愛称で称され、世界の名士たちにも愛された名艇が、いよいよ完全復活までのカウントダウンを迎えています。
私たちリビエラグループは、この歴史的帆船を、未来へ伝え遺すべき宝と捉え、まるで式年遷宮を彷彿させるこだわりの極みであるレストア作業を通じ、再生に向けて心血を注いできました。そして、その工程を精密に記録するとともに、この挑戦にまつわる記憶や携わった人々の思いを綴ることを、慧眼で知られ、粋に通じた一人の表現者に託しました。
直木賞作家・伊集院 静さん。2017年6月の上棟式から、伊集院さんには、シナーラ復元の現場を見守り続けていただいています。

歴史を綴るだけでなく
〝これから〟を語りたい

伊集院さんとリビエラのコラボレーションは、記念出版として上梓した『DREAM of RIVIERA』に遡ります。これは、米国ロサンゼルスの「ザ・リビエラカントリークラブ(RCC)」の魅力を綴った本。こよなくゴルフを愛して各国の名コースを巡り、何度もRCCでプレーして、著書の中でもたびたびRCCに対する特別な思いを語ってきた伊集院さんにしか書けなかった本です。
「RCCのオーナーである渡邊曻会長とはゴルフを通じて出会った友人です。意気投合して書くことになった本ですが、形になるまで4年近くかかっています。最初の1年ほどは、あまりに多彩なRCCの魅力を伝えるには何から書くのがベストなのか構想が定まらず、筆を執ることができなかった。文献を読み込んでRCCの歴史を勉強し、改めて現地に何度も足を運んで、スタッフたちの話に耳を傾けるうちに、やっと気付きました。歴史を綴るだけでは不充分。RCCの〝今〟と〝これから〟を語る内容でなければ……と」(伊集院さん談・以下「」内同)

なぜ万難を排して
甦らせるのか?

「渡邊さんからシナーラ復元の話を聞いたのは、リビエラシーボニアマリーナでのセーリングでご一緒した時。スケールの大きさとロマンに感動しました」
伊集院さんならではの視点でシナーラを綴った本―渡邊と約束したものの、『DREAM of RIVIERA』以上の困惑もあったとのこと。
「僕は海辺の街の出身で、幼いころから船を眺めて育ってきました。でもヨットマンではないから、何かを語れるほどの知識はないわけです。
実際、上架したシナーラを初めて見たときは、この古びた船を甦らせるということが、よくイメージできなかった。リビエラという一企業が、万難を排して行うことの意義が」誰よりも知るRCCを書くときでさえ熟考を重ねた伊集院さんだけに、シナーラという未知の対象に迫るに際し、この情熱への戸惑いが生じたのも無理からぬこと。

2年半、特設ドックに
足繁く通って

それでも、この2年半、伊集院さんは足繁くドックに通い、シナーラのために献身している人々と、定期的に言葉を交わしてくれました。「彼らと接するうちに、はっきりと見えてきたことがありました。
この復元プロジェクトの現場を牽引しているのは、シナーラが創建された当時の技術を継承している海外のベテラン船大工やエンジニアたちです。彼らはこのプロジェクトのために、それぞれの国から海を渡ってやってきた。朽ちかけた船を直すというだけなら、彼らのホームグラウンドで作業するほうが効率的に決まっています。でも、棟梁のポール・ハーベイもベンジャミン・ホッブスも、「こんな機会はない」と、日本に年単位で腰を据えることを決めた。日本に来て作業することに意義があったからです。
それは古きヨーロッパの技術を日本に伝え、再生させるということだけがこのプロジェクトの意義ではないはずだと、今の僕は感じています。
船造りを天職とする彼らにとって、日本に渡ってくることは、生き方にかかわることなのではないか。世界の海はつながっています。ひとつにつながった海を渡り、人々にとっての普遍の宝を次世代へとつなげていく。彼らにこのプロジェクトを託した渡邊さんの思いもその辺りにある。僕はそう睨んでいるんです」
この洞察はさすが。リビエラの企業理念は〝大自然と共に心豊かに生きる〟。シナーラは、理念のすべてを物語る〝フラッグシップ〟です。

進水のとき、僕らは
どんな風景を見るのか

シナーラ・プロジェクトも、間もなくクライマックス。「シナーラは日に日に〝貴婦人〟の美しさを取り戻しつつある。2年半前の、骨だけになった姿を見た身としては、それだけで感動ですが、ここまでの蓄積は〝美〟という言葉だけでは語れないと思っています。
6月のお披露目では、大勢の人たちに、それを見てもらえる。その意味はとても大きいでしょう。
この船が海に浮かび、帆に風を受けるとき、僕らはどんな風景を見ることになるのか。楽しみです」
小説家がシナーラに注ぐ視線は限りなく優しく、そして熱い―。
伊集院さん御不例の報が飛び込んできたのは、このお話を伺った直後のことでしたが、無事、退院されたとのこと。私たちリビエラは、先生の一日も早い〝現場復帰〟をお待ちしております、先生に見守られてきたシナーラとともに。

シナーラ・プロジェクト
シナーラ

シナーラの故郷・英国のThe Times 紙やDaily Telegraph 紙が関心をよせ、記事が掲載されました。欧米メディアの関心の高さに驚きます。


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