2017年10月発行

仲道 郁代

提供:サラマンカホール

各界の第一線で活躍される著名人にお話を伺うインタビュー。第一回目は、今年、世界的な演奏家としてデビュー30周年を迎えたピアニストの仲道郁代さんです。仲道さんとリビエラのコラボレーションのはじまりは、 2013年10月、リビエラ東京でのコンサート。以来毎年、 リビエラでライブ演奏を聴かせていただいています。

仲道 郁代

ピアニスト

仲道 郁代

Ikuyo Nakamichi

第51回日本音楽コンクール第一位、 ジュネーヴ国際コンクール最高位、エリザベート王妃国際コンクールと受賞を重ね、1987年日欧でデビュー。いま日本で最も充実した活動を行うピアニストの一人である。レコード・アカデミー賞の「ベートヴェン:ピアノ・「ソナタ全集」とソナタ全曲演奏会シリーズほか、モーツァルト、ショパンの録音やシリーズ公演が高く評価されている。 これまで10年以上に渡り続けてきたサントリーホールでのコンサートを基礎として、2018年からの10年間には、新たなコンサートシリーズを毎年春と秋に開催予定。 最新盤は、 シューマン。 桐朋学園大学教授、大阪音楽大学任教授、一般財団法人地域創造理事。
オフィシャルホームページ
http://www.ikuyo-nakamichi.com

多様性を認めると
感動をシェアできる

「それぞれ異なる相手の求めを感じ取ろうと努め、できる限り受け止めるというのは、つまり多様性を認めるということ。
多様な人々が、それぞれに自分を肯定できる〝場〟は心地よい――これは、スタッフさんに限った話ではありません。私たち演奏家も同じです」
――コンサートの後、同じ演奏を楽しんだ人と感想を語り合うと、「ここがよかった」というところが自分と違っていることがあります。他の人の感想を聞くと「確かにそこもよかった」と思えてきて、相手の分の感動までシェアしてもらった気になります。
「感動のシェア・・・・・・それはとても嬉しいことですね。ある曲を聴いて、あの方はこんな感想を持った。素敵な感性だな......でも、それとは違う捉え方をし自分の感性だって、同じくらいに素敵だ相手を認め、自分のことも認められる。正解は一つじゃありません。それが芸術ですから」

他者の存在を知って
自分の存在を知る

「クラシック音楽では、何百年も前の作曲家が書いた譜面のとおりに弾きます。時代を経ても変わらない人生の喜びや哀しみを表現した曲だけが、今日まで残って聴く人の胸を打つのだから、譜面のままが当然。
同じ譜面なのに、演奏者によって味わいが違うのは、解釈が人それぞれだから。この曲を書いたとき、作曲者はどんな思いを抱えていたのか。人間の普遍性を描いた曲だから、今を生きる人にも自在に想像できるわけです。
また、コンサートでは、お客様一人一人の思いに想像を巡らせることも、演奏を創り上げる大きな力です。
作者・聴く人の思いに向き合うことで自由にふくらませたイメージを、コンテクストの一音一音に込めて、演奏家は自分の演奏を創っていきます。
人は、他者の存在を知ってはじめて、自分の存在を認識できる ―人間は、自分一人だけでは存在できません」
仲道さんのコンサートは、トークも絶妙。クラシック音楽に詳しくない人も惹き込まれてしまいます。
「作曲家の人となりや曲の背景を知っていただくことで、聴く方の“想像の扉が開くきっかけになれば......そう思っています。音楽に身を浸すことで何かが見つかる。他人も自分も、みんが共存しているとわかる。コンサートがそんな〝場〟であったら嬉しいですね」

アドバンストではあるが、
オールドではない

2017年は、音楽家生活30周年の節目と伺いました。
「プロになって30年、五十代半ば。でも、クラシックの世界では中堅。ベテランと呼ばれるためには、音楽家は長生きしなければなりません(笑)。
20世紀を代表するピアニストの一人で、演奏家として90年のキャリアを送った巨匠アルトゥール・ルービンシュタインは、七十代のときに「枯れる前に日本で演奏してほしい」と言われて、こう述べたそうです。
『私はアドバンスト(先駆者)ではあるが、オールド(高齢者)ではない』
先に生まれて皆より前を駆けているが、古びてなどいない私もベテランと呼ばれる次の30年には、もっといい演奏をしているはず。そうありたいと思っています。
ピアノ一筋で駆け抜けてきて今があるわけですが、体と心のメンテナンスの重要性を感じはじめていました。
その意味で、リビエラとの出会いは貴重でした。
自然に囲まれた場でのコンサートは、新たな刺激をくれました。ピアノほどの趣味といえるものもなかった私に、船の魅力を教えてくれたのもリビエラ。実は船舶免許を取ろうと思っているんです。仕事の都合でチャンスを逃してしまったのですが、近々必ず。次の30年のためにも、本気です!」


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