シナーラ 修復完了まで
あとわずか、再び海へ
SPECIAL
リビエラグループのフラッグシップ
2020年 6月 発行
写真/文 矢部洋一

「次の100年も、そしてその後も末永く、この歴史ある美しい船が海を駆けていられるように」との思いを込めて進められてきた歴史的大型木造帆船「シナーラ」の修復(レストア)プロジェクトが、いよいよ最終段階に入りました。5月末には、修復後初の帆走テストが実施され、見事に甦ったその姿を海上に見せました。シナーラの新たな歴史が始まっています。




時を超えて甦る
美しき名艇シナーラ
およそ3年半に及ぶ妥協を排した入念な修復作業の結実がついに姿を現してきました。2015年の初めにスタートした歴史的大型木造帆船「シナーラ」のレストア(修復)プロジェクトは、2017年に作業開始し、いよいよ最終段階に入ったのです。
このプロジェクトはいろいろな意味で前代未聞の、困難な要素を並べたならきりのない、まさに大いなる挑戦と言ってよいものでした。
シナーラは英国屈指の評価を誇った造船所、キャンパー&ニコルソンによって建造された俊足の木造ヴィンテージヨットです。王室とつながりのあるヨットマンが注文し、最高の材料と最高の造船技術者、船大工たちによって造られた由緒ある名艇でした。シナーラ(進水当時の船名はGwendlyn)が進水したのは、今から93年前の1927年3月です。
当時の英国はのちにヨットの黄金期と呼ばれる時代にありました。キャンパー&ニコルソンの工場では、シナーラと並んで大型の豪華ヨットが次々に建造されていたといいます。
英国での進水後、シナーラは長い年月の間に何人ものオーナーの手を経ながら、多くの航海を重ね、海を走り大洋を渡っています。当然ながら、年月とともに船には疲弊が重なっていきますが、木造ですからその進行はなおさらです。この船が日本のオーナーの手に渡り、英国を出港して三浦・三崎港に着いたのは1973年のことでした。
2001年シナーラを受け継いだリビエラグループの渡邊曻会長は、「海の貴婦人シナーラ」を大切に磨き続けました。
「リビエラグループのフラッグシップとして世界に誇れる船に生き返らせる。次の世紀も、さらにその次へも、この船が帆をいっぱいに張って海を駆けることができるようにしたい」と、船の本格的なレストアを行うこと、しかもそれを日本で行うことを決断し、2015年シナーラのレストアプロジェクトが立ち上がりました。これは、SDGsにもコミットしたサスティナブルな社会を目指す『リビエラ未来創りプロジェクト』の「古き良きモノを大切に磨き上げて次の世代に残す」という理念に基づいたものです。
日本に来て44年、英国での進水から数えて船齢90歳となった2017年は、シナーラにとって特別な年になりました。海からシナーラを上架しリビエラシーボニアマリーナのドッグでのレストア作業が本格始動したのです。
大いに名誉とされる木造ヨットの“100歳クラブ”というのがありますが、シナーラも間もなく仲間入りです。
日本で修復を行うためには、まず人材の確保が必要です。欧州や米国で綿々と受け継がれる伝統的な木造帆船の造船技術を持ち、とりわけ古い木造ヨットの修復に経験の深い、一流の造船職人(船大工)が英国、イタリア、スペインなど世界10か国から集められました。しかし必要なのはもちろんそれだけではありません。




国際協力が伝えた熟練の技術
大型の木造ヨットの造りはとても複雑で、多彩な専門分野の職人や技術者たちを裾野に持って成り立っています。たとえば、板と板をつなぎ留める釘ひとつにしても、シナーラに使われているのは“ネイバルブラス”と呼ばれる特殊な真鍮でできた手作りの船釘で、日本では手に入りません。木製のマスト、セール、鉄製の補強部材、ロープ、木製の滑車など、ざっと挙げるだけでも20を超える専門の製造・供給業者が必要で、ほとんどは欧州か米国の会社です。しかも船が大きいだけに、部品も大きく重い。情報と物のやり取りにも大変な労力と費用、時間がかかります。
しかしその一方では、国際的な拡がりを持つプロジェクトにもなりました。さらに、日本で行うことによって、日本人職人たちも大型木造ヨットのレストア作業という全く未知の仕事に直接関わることを通じて、当初の目的としてた「日本への技術伝承」も果たせています。
欧米の熟練職人+日本人職人で構成されたレストアチームは、渡邊会長の思いを受けて、それを実現すべく、難しい作業と生活スタイルや言葉の壁を乗り越え、リビエラファミリーとして一丸となり汗を流してきました。
そして今年3月、シナーラは水に浮かべられ、5月には帆を揚げて初めてのテストセーリングに出ました。船の出来栄えは想定どおりに見事、いやそれ以上です。海に浮かぶその美しさは圧巻でした。
残る作業は、内装の仕上げです。約8割の建造当時の材料を利用した船体同様に、ここでもオリジナルの部材が生かされており、100年前の歴史を感じさせる格調高い雰囲気が造り込まれていくでしょう。
完成まで、あとわずかです!
